日本の法人税は本当に高いの?――「法定税率」と「実効税率」をやさしく解説

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日本の法人税は本当に高いの?――「法定税率」と「実効税率」をやさしく解説(③のテーマ・2025年版)


やさしい税金/初学者向け

日本の法人税は本当に高いの?――「法定税率」と「実効税率」をやさしく解説(2025年版)

ニュースで「日本の法人税は高い」「いや、実際は低い」と真逆の意見を見かけませんか?
カギは法定税率実効税率のちがい。そして近年は、グローバル・ミニマム課税(最低15%)という国際ルールも加わりました。
本記事は、何も知らない人にもわかるように、基礎からやさしく説明します。

まず結論(TL;DR)

  • 表に出る「法定税率」は高めに見える一方、各種の控除・優遇で、企業が実際に負担する「実効税率」は下がることが多い。
  • 国際的には、優遇後の実効税率で見ると20%前後まで下がる場合もある(企業の規模・業種・投資内容で大きく差)。
  • さらに、各国で税負担の“底”をそろえるため、最低15%を確保する国際ルール(グローバル・ミニマム課税/Pillar 2)が導入済み。日本も対応済み。
  • 「もっと上げるべき?」は目的次第。税収の安定・公平性を重視する意見もあれば、投資・賃上げ・国際競争力を重視して慎重論もある。

用語の基礎:法定税率と実効税率のちがい

用語 意味 イメージ
法定税率 法律や条例で決まっている表向きの税率。法人税に、地方法人税・法人住民税・法人事業税などが合わさった法定実効税率として報じられることも。 「メニューに書いてある定価」
実効税率(実負担) 各種の控除・特別措置・欠損金の繰越などを反映した、企業が実際に負担した割合。 「割引やクーポンを使った後の支払い額」

※ 企業の規模、利益の出方、研究開発の投資、設備投資の有無などによって実効税率は大きく変わります。
※ ニュースの「日本は〇%」は、どちらの数値を指しているかを必ず確認しましょう。

日本は国際的に高い?低い?――見方で変わる“位置づけ”

1) 表の数字(法定税率)で比べると

  • 日本の「法定実効税率」は主要国平均より高めに見えることが多い。
  • ここだけ見ると「日本は高税率」と言われやすい。

2) 実際の負担(実効税率)で比べると

  • 研究開発減税・投資減税・各種税額控除などで負担は軽くなる
  • 大企業でも場合によっては20%前後、条件次第ではさらに低いケースもあり得る。

👉 結局、日本は「名目は高め」「実負担はケースバイケース」。このギャップが「高い/低い」論争の原因です。

国際ルール:グローバル・ミニマム課税(最低15%)とは?

多国籍企業が各国の優遇を組み合わせて極端に税負担を下げる“抜け道”を防ぐため、OECD/G20の枠組みで、
いわゆるPillar 2(グローバル・ミニマム課税)が導入されました。要点は以下です。

  • 対象企業(一定規模の多国籍企業など)の有効税率が15%を下回る場合、差額を追加で課税して最低15%を確保する。
  • 各国は自国で差額を回収できるようにQDMTT(国内最低課税)などの仕組みを整備。
  • 日本も制度導入済み。これにより、特定の優遇で極端に低い税率にする余地は縮小しました。

※ これにより、国ごとの「優遇合戦」に歯止めがかかり、税の公平性と国際的なイコールフッティングが進むと期待されています。

「さらに上げる必要があるの?」――賛成・慎重論を整理

上げるべき(または優遇を縮小すべき)という意見

  • 税収の安定確保:社会保障や防衛、教育、少子化対策などの財源が必要。
  • 公平性:一部企業の実効税率が過度に低いなら、負担の偏りが生じる。
  • 透明性:複雑な優遇を整理すれば、制度が分かりやすくなる。

慎重に(または下げる・優遇を維持)という意見

  • 投資・成長への配慮:税負担が重いと、国内投資や研究開発、賃上げが鈍る懸念。
  • 国際競争力:グローバルに立地を選べる企業の流出リスク。
  • 景気局面:景気が弱いときの増税は、経済にマイナスに働きやすい。

👉 「上げる・下げる」は目的と副作用のトレードオフ
税収・公平性・成長・賃上げ・投資活性化をどうバランスさせるかが論点です。

よくある誤解Q&A

Q1. 法定税率が高い=企業はそのままの割合で払っている?

A. いいえ。控除・優遇・欠損金の繰越などを差し引いたあとの実効税率が、企業の実際の負担に近い指標です。

Q2. 大企業はみんな“超低税率”なの?

A. 一様ではありません。業種・利益水準・投資行動によって実効税率は大きく変わります。研究開発型や投資が大きい企業は、優遇の影響を受けやすい傾向があります。

Q3. 最低税率15%ができたら、議論は終わり?

A. いいえ。15%は“”の目安に過ぎません。各国はそれ以上の水準や、優遇の設計・簡素化・透明性などを引き続き議論します。

ミニ例題:実効税率ってこうやって下がる

例:ある年度の税負担イメージ

  1. 利益(課税所得)に法定税率をかけると「定価の税額」が出る。
  2. 研究開発や設備投資などがあれば、税額控除・特別償却などを適用。
  3. 過去の損失があれば、欠損金の繰越控除も使える。
  4. 結果として、実効税率(実際の負担割合)は定価より下がることがある。

※ 実際の計算は複雑で、企業ごとに大きく異なります。ここではイメージの説明です。

ニュースを読むコツ

  • 「日本の法人税は〇%」――それは法定税率? それとも実効税率
  • 「優遇の見直し」――どの業種・どの規模の企業に影響? 賃上げ・投資との関係は?
  • 「最低税率15%」――多国籍企業への国際ルール。国内の中小企業にはどう関係する?

まとめ

日本の法人税をめぐる「高い/低い」論争は、法定税率と実効税率の違いを押さえるとスッキリします。
さらに、最低15%という国際ルールができたことで、過度な“抜け道”は小さくなりました。
これからの論点は、税収の安定・公平性と、投資・賃上げ・競争力の両立。
「どの目的を優先し、どの副作用を許容するか」を見ながらニュースを読むのがコツです。

※本記事は一般向けの入門解説です。実際の税務判断は、最新の法令・通達・会計基準および専門家の助言に基づいて行ってください。


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